- 【監修】
- 名古屋大学大学院医学系研究科泌尿器科学 教授 後藤百万先生
前立腺肥大症の薬物治療に使われる薬は、α1(アルファワン)アドレナリン受容体遮断薬(α1遮断薬)、5α還元酵素阻害薬、抗アンドロゲン薬、生薬・漢方薬などに分けられます。

α1遮断薬は、前立腺肥大症に伴う排尿困難の薬として、現在最も多く使われる内服薬です。前立腺平滑筋に対する交感神経緊張状態を抑えることにより、前立腺を弛緩させ、その結果として、前立腺の尿道に対する圧迫を軽減します。また、最近、前立腺肥大症に伴う過活動膀胱の改善にも効果があり、排尿困難だけでなく、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感などの蓄尿症状の改善にも有効であることが示されています。即効性があり(内服後1週間以内から効果がみられます)、十分な症状改善効果と満足度が得られます。前立腺を小さくする効果はありませんが、長期的な改善効果も示されています。
α1受容体は血管にもあるので、α1遮断薬は血管を拡張させて、急な血圧低下(起立性低血圧)によるたちくらみなどの副作用を起こす可能性が指摘されています。しかし、最近広く使われている新しいα1遮断薬は、血管を拡張させる作用はほとんどなく、血圧低下に伴う副作用はまれで、高血圧に対する降圧剤と併用して服用しても、安全であることが報告されています。その他の、一副作用として、めまい、下痢、射精障害などがまれにみられることがあります。なお、α1遮断薬を服用していると、白内障の手術に影響することがあるので(手術を行う眼科医が知っていれば問題はありません)、眼科の医師に服用していることを伝えることが必要です。

日本では2009年に認可された新しい薬で、血液中の男性ホルモン(テストステロン)が、前立腺組織に作用するのを抑える作用を持ちます。血液中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれると、5α還元酵素の作用によりジヒドロテストステロンに変換され、このジヒドロテストステロンが前立腺細胞の増殖に働きます。この薬剤は、5α還元酵素の作用を抑えるため、前立腺細胞の中で、テストステロンがジヒドロテストステロン変換されるのを抑制するために、前立腺細胞の増殖を抑制し、その結果、肥大した前立腺が縮小します。この薬を長期間服用することにより肥大した前立腺が縮小して、排尿困難の症状を改善します。1年の内服でおおよそ25~35%程度前立腺サイズが小さくなります。この薬の作用はα1遮断薬と異なり、即効性はなく、ゆっくり効果があらわれるので、長期間の内服が必要で、中止すると前立腺は再び大きくなります。前立腺が大きい場合や、α1遮断薬による治療で効果が不十分な場合には、α1遮断薬と5α還元酵素阻害薬の併用が有効です。
一般に副作用の発現率は低く、特に、この薬は血液中の男性ホルモン(テストステロン)を減少させることがないため、勃起障害や性欲減退などの副作用はまれです。この薬は、血液中の前立腺特異抗原(PSA)の値を約50%低下させるため、前立腺癌を見逃さないように、投与前、投与中はPSA値の測定とあわせて前立腺癌の評価を行うことが必要です。
前立腺に対する男性ホルモンの作用を抑える薬ですが、5α還元酵素阻害薬とは作用機序が異なります。抗アンドロゲン薬は精巣からのテストステロン産生を抑制するとともに、血液中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれるのも抑制します。この薬も、肥大した前立腺を縮小して、排尿困難の症状を改善します。血清テストステロン値を低下させるために、高頻度で勃起障害や性欲低下などの性機能障害の副作用がみられ、うっ血性心不全、血栓症、肝機能障害、糖尿病などまれな副作用も添付文書に示されています。血液中のPSAを低下させることは5α還元酵素阻害薬と同様ですので、投与前、投与中の前立腺癌の評価を行うことが重要です。16週間投与しても、期待された効果が得られない場合は、漫然と続けない方がよいとされています。
植物から抽出したエキスを薬にした生薬や、いくつかの漢方薬が前立腺肥大症治療に使われることがありますが、有効性については十分な科学的根拠が示されておらず、α1遮断薬よりは効果が劣ります。副作用はまれです。
